前回の室内練習(ボルダリング)から3日後。
本物の岩を登るのだ。
岩を。
素手で。
そんなワイルドなことをしている自分が想像できなかった。本当に人生何が起こるかわからないものである。
素人向け・安全なトップロープクライミング
さて本番である岩場を登るのは、トップロープクライミングなるスタイルだ。
安全ロープが通されているルートを2人1組(登る人と、下でロープを保持する人)で登るスタイル。安全確保の用具は使用するが、それに頼らず自力で登る「トップロープクライミング」。
クライマーさんがお手本を兼ねて先に登り、ルートの要所要所にロープをひっかけてくれる。
こうすることで、私が登る時に万が一足を滑らせても下までストーンと落ちることがないので安全。
安全であっても真剣に
登るべき岩は約24メートルと高く、見上げていると首が痛くなる。
ルートの途中で凹凸が激しくなったり道幅が狭くなったり、当たり前だが均一ではない。
タイの岩場だけあって周りではタイ語や英語が飛び交っている。皆真剣に上を目指している。「きゃーこわーーーい。降りま~す。」なんて言えるような雰囲気ではない。
登りだしたら真剣に、己の限界に挑まなければいけないような空気を感じた。
クライミング・スタート!
一度登り始めたらもう自分で見て考えて登るしかない。
同じルートでも人によって使った岩が違うので、あまり細かい話は参考にできない。(というか教えてもらっても覚えられない)
なかなかの精神状態になるので、人それぞれのまだ見ぬ己に出会えるスポーツじゃなかろうか。
序盤
室内練習場と違い、意外にも壁が垂直気味だったからか、登れる!少し希望が見えてきた。
自分に体力が無いのは分かっているのでスピード重視。あまり考えず、とにかくよじよじと登った。
岩をぐっと握っても痛くない。室内練習場のホルダーの方が摩擦があって痛かった。
一定の高さまで登ると下からのアドバイスも聞こえにくくなる。どこに足を置けばいいかも自分でなんとか探さなくてはいけない。
私は高い所が得意じゃないので、足元は極力見ないようにした。もちろん周りの景色も。
下を見ないから今自分がどの高さにいるのかも分からない。
ほんとは自分の現在地くらいは把握していた方が良いと思うが、周りを見て我に返ってしまうと、“怖い”という気持ちがどんどん出てくるような気がした。
中盤
目の前と少し上の岩だけを見て登る。
岩と多少の枯葉しか見えない景色がひたすら続き、たまに出くわす変な赤い虫に癒された。
そんな生き物がいるだけほっとしてしまう程、登っている最中の私は「岩、岩、行けども行けども岩」に精神的に圧倒されていたのだと思う。
実際途中で足場が悪くなってゆき、腕がぷるぷると疲れているのを感じると少し泣きたくなった(実際メンタルが崩壊して泣いてドロップアウトする人もいるらしい)。
ゴール目前
結局24メートルのうち、23メートルくらいまで登り、「ゴールがここにある!」という場所まで行ったのだが
そこからのあと2・3歩がどうしても進めなかった。
岩の凹凸が極端に少なくなり、足を泳がせて乗せる場所を探してもひっかからない。
もし足を乗せる場所があったとしても、次に手を掛ける場所はかなり遠い。
そうこうする間に腕が疲れてくる。焦る。
足場を無理やり探して足を乗せても、片腕を離したら絶対落ちる。
進めないし、退けない。多分かなりテンパっていたと思う。
自分の感覚では5分弱くらいその場で動けずどうしようどうしようと留まっていたが、もう腕が震えて体を支えていられなくなり、リタイアした。
あと少しだったのに・・・
地上へ
下へ降りるとなって初めて、やっとハーネスに体を預ける。空中でベルトに座るのは結構怖かった。
クライマーさんに促されて、やっと周りの景色を見る。自分で思っていたより高い位置でびっくりした。
枯葉色の木々が遠くにたくさん見えた。空中にぶらさっがっている自分が変な感じだった。
下に降りるのは簡単だろうと思っていたが、私の精神状態がハイになっていたからか腕の力がどうしても抜けない。むちゃくちゃにロープにしがみついて足でバランスを取れず、体を岩にぶつけながら降りた。
登った後。降りたあとしばらく腕全体がワナワナして止まらなかった。指の力も入らない。
全身で、「疲れたーーーー!!!!!」を感じた。
そして降りた直後から腸が気持ち悪く、後1時間以上はお腹がずっと気になった。精神的なものか?吐き気がする人もいるそうだ。
その日はその一本を登ったら、もう体も心もフヌケになってしまった。
もう何もしたくない。私はやりきった。
クライミング後日。体の具合は
登った翌日は二の腕が相当に痛かった。腕を上にあげたり、力を入れたりするとツリそうになる。
こんな調子がその後一週間くらい続いた。
二の腕シェイプにクライミング。かなり良いんじゃなかろうか。
逆にそれ以外に筋肉痛等の不調は無かったのが不思議。もっと全身大変なことになると想像していたのだが。その前の室内練習で少し体が慣れていたのかな?
クライミングの感想まとめ
日常的に自然を感じることなんてあまり無いが、自力で上まで登った地点から見た景色はやはり心にくるものがあった。
今更ながら、もっとゆっくり景色を眺めれば良かったと思う。
グループやチームで競うスポーツはどうも苦手だがクライミングなら“対自分”でやれる。
追い詰められた時の精神状態など、普段はあまり出てこない自分に気が付けて面白い。
もう少し室内で練習を積んでから(少し体を軽くして)、また是非トライしたい!